身近な人が亡くなったときに問題になるのが相続です。もし、相続した財産のなかに、事故物件が含まれていた場合、相続してもその後の売却や活用に困ってしまいます。

ところで、事故物件を相続した場合、一般的な物件と同様に相続税はかかるのでしょうか。また、相続税がかかる場合、税額の優遇などはあるのでしょうか。

この記事では、事故物件と一般的な物件の相続税の違い、事故物件の相続を放棄した場合のメリットやデメリットについて解説します。

事故物件を相続した場合の税金について

事故物件とは、人の死が関連する事件や事故によって「心理的な瑕疵(不具合や欠陥)がある」と見なされた物件です。もし、相続した物件が事故物件だった場合も相続税は一般の物件の相続と同様に発生するのでしょうか。

通常物件と同じく相続税が発生する

結論からお伝えすると、事故物件でも通常の物件と同様に相続税は発生します。物件を相続した場合の相続税について、基本的な考え方を解説します。

相続税はいつ、何に発生するのか

相続税とは、亡くなった人から土地などを相続したときに、相続した財産に対してかかる税金です。

民法882条では「相続は、被相続人の死亡によって開始する」とされていて、相続税の申告と納付は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10カ月以内に行うことになっています。

申告期限まで10か月間ありますが、申告書を作成するためには相続人の調査や遺産分割協議などの事前準備が必要です。もし、相続税の申告や納付が期限を過ぎた場合、本来の税金に加算税や延滞税が上乗せされることがあるので注意が必要です。

また、相続を受けた人が相続時精算課税制度を利用している場合も忘れずに相続税の申告をしましょう。相続時精算課税制度は、60歳以上の父母または祖父母が、18歳以上の子または孫へ生前贈与した場合に利用できる制度です。この制度の場合、生前贈与した財産は相続財産として見なされます。そのため、相続税の計算には生前贈与の財産も含まれます。相続税からすでに支払った贈与税を引いた金額が、実際に支払う相続税の額となります。

もし、相続を受けた人が相続時精算課税制度を利用せず、さらに相続した財産が基礎控除額の範囲内であれば相続税の申告は不要です。

払いすぎた税金は相続税還付で戻ってくる

相続税は、自分で計算して申告をします。そのため、本来の額よりも多く支払ってしまうこともあります。

事故物件の場合は相続税の額が少なくなるケースがあるため、もしも事故物件であることを知らずに、一般的な物件と同様の方法で相続税を計算した場合、相続税を払いすぎている可能性があります。

相続税を払いすぎた場合は、税務署に返金請求しましょう。相続税の返金のことを「相続税還付」といい、税務署に返金を請求することを「更正の請求」といいます。更生の請求は、相続税の申告期限から5年以内であれば可能です。

事故物件の相続税評価について

相続税を計算するために大切なのが「相続税評価」です。事故物件の場合は、相続税評価が下がることで、相続税の額が一般的な物件よりも下がる可能性があります。

相続税評価とは

相続税評価とは、相続税の計算をするための基準です。原則として、相続が発生した時点での財産の評価額を算出するために使います。

現金を相続した場合であれば、保有している金額が評価額となりますが、不動産の場合は実際に売却してみないと時価がわかりません。そのため、相続税の計算では相続税評価を用いて時価を計算します。

相続税の計算をするためには、土地と物件それぞれで現時点の時価である相続税評価額を計算する必要があります。相続税評価額の計算方法は後述しますが、土地の相続税評価額の計算は複雑で専門知識が必要です。

事故物件の相続税評価は下がる傾向にある

事故物件のように心理的瑕疵がある物件は、利用価値が低下していると認められる部分の相続税評価が10%低くなります。相続税評価が下がることは、資産価値の低下につながります。そのため、心理的瑕疵がある物件は時価が一般的な物件よりも低いとみなされ、相続税が安くなります。

相続税評価の算出方法

相続税評価は、土地と建物それぞれで算出方法が違います。

土地の相続税評価の算出方法は2パターンあります。

1つ目は「路線価方式」です。国税庁が年に1回発表する路線価をもとに計算する方法で、計算式は次のようになります。

 土地の評価額=1㎡あたりの路線価×土地の面積(㎡)×補正率

補正率とは、土地の形がいびつで利用しにくい場合などに使われる数値です。利用価値が低い土地ほど補正率の数字が小さく、評価額が低くなります。

路線価が定められていない土地の場合は「倍率方式」を使って評価額を算出します。計算式は次の通りです。

 土地の評価額=固定資産税評価額×倍率

倍率は、国税庁のホームページの評価倍率表で確認できます。

続いて、建物の相続税評価の計算方法です。建物の場合の計算方法は1パターンのみです。

 建物の評価額=固定資産税評価額

ただし、事故物件では上記の評価額から、利用価値が下がっていると認められる面積部分の評価額が10%差し引かれます。また、建物を貸家として利用している場合なども、土地や建物の評価額が減額します。

相続税の計算は自分でしなければなりませんが、難しいと感じたら相続に強い税理士に相談するとよいでしょう。

事故物件を相続放棄するとどうなる?

事故物件の場合も一般的な物件と同様に相続税がかかるのであれば、相続自体を放棄したいと考える人もいると思います。では、事故物件の相続を放棄したら、その後どうなるのでしょうか。

相続放棄された事故物件は、空き家としてそのまま残ります。その空き家が衛生上、もしくは保安上の問題がある「特定空き家」と判断された場合、行政や自治体が空き家の解体や撤去、いわゆる行政代執行を行います。

行政代執行でかかった費用は、空き家の管理者に請求されます。たとえ相続放棄をしていても、次の順位の相続人に事故物件の相続権が移ったことを伝えていなければ、空き家の管理者とみなされ、請求される可能性があります。

では、相続人全員が相続を放棄した場合はどのようになるのでしょうか。

民法第239条には「所有者のない不動産は国庫に帰属する」と定められています。しかし、相続人全員が相続放棄すれば自動的に国が管理してくれるというわけではありません。

相続した事故物件を国庫に帰属させるためには、家庭裁判所へ相続財産管理人の選任請求、予納金の納付などが必要です。予納金の目安は10~100万円程度で、家庭裁判所が算出します。

事故物件を相続放棄するメリットとデメリット

事故物件の相続を放棄するとどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。

メリット

相続放棄をしたことで、事故物件にかかる固定資産税や管理費の支払い義務がなくなります。

また、事故物件の売却処分を考えずにすむこともメリットでしょう。

デメリット

事故物件の相続だけを放棄することはできないため、事故物件以外の財産も放棄することになります。プラスの財産があっても、受け取ることはできません。

また、一度放棄してしまうと撤回はできません。相続放棄してから他の財産が見つかった場合でも、取り消しができないというデメリットがあります。

まとめ

相続した物件が事故物件であっても、一般的な物件と同様に相続税がかかります。ただし、事故物件の場合、利用価値が低下していると認められると相続税が安くなります。

事故物件を相続放棄すると、物件はそのまま空き家として残ります。もし、その空き家に衛生上や保安上の問題がある場合は、行政代執行で国や自治体が解体することもあります。行政代執行の費用は、相続放棄していても請求されることがあるので注意が必要です。

相続した事故物件の売却に困ったら、事故物件の取り扱いが豊富な不動産会社に相談しましょう。